NHK「「被曝(ひばく)の森~原発事故 5年目の記録~」: 福島の放射能は安全だって
2016-03-07
ひで~な、NHK!!一応終了している本ブログですが、一言、書かずにはいられないじゃないか。
昨日2016年3月6日放送のNHKスペシャル「被曝(ひばく)の森~原発事故 5年目の記録~」、11分35秒くらい~16分25秒頃までで紹介される弘前大学・三浦富智・准教授の研究紹介、

(ナレーション)「つまり、ネズミは被ばく量が多いにもかかわらず、現在のところ、染色体への影響は見られない。」
だそうです。
三浦富智の研究というのは、福島原発事故で汚染された森で捕獲されたアカネズミの染色体を調査して、放射線の影響を考える研究なのだそうですが、この研究、最初から間違ってます。
番組のナレーションは言います、「アカネズミが暮らす森の地面、今なお高い放射線量が測定される。また、食べ物となる木の実なども汚染されている。体の中からも、外からも被曝するアカネズミは、影響を受けやすいのではないかと三浦さんは考えた。」
こんな考えでアカネズミを調査しているならば、研究者として大バカでしょう。なぜなら、ネズミはネズミ算で生きている生物だからです。
誰でも知ってるように、ネズミは多産です。アカネズミがどれだけの繁殖力を持っているかは知りませんが、ラットなどでは一度の出産で子ネズミを5~6匹生み、これを3~4か月ごとに繰り返し、2年程度続きます。ざっと掛け合わせると30匹以上、しかも、子ネズミの方も3~4か月で出産可能になりますから、こっちも増えて・・・まあ、とんでもないネズミ算です。
でも、ネズミが増えすぎて困るといった事態は、普通の森の中では起きません。ある森の中では、ほぼ一定の個体数が維持されています。何が起きているかといえば、例えば、1匹のネズミが15匹の子を残すなら、次の世代に生き延びるのは1匹だけで、他の14匹は死んでいるということです(1つがいから30匹なら、1匹ならその半分ということで、とりあえず15匹)。キツネやタヌキ、イタチに猛禽にヘビ、と、ネズミを餌にしている動物はいくらでもいて、大抵のネズミは喰われて死んでいる、ということです。その森の許容するニッチのサイズ(個体数)を超えた個体は、理由の如何によらず消去される、というのが森の掟です。
このような強烈な生存競争(高い淘汰圧)の下にあるのがネズミですから、遺伝子異常でもなんでも、ちょっとでも調子の悪い個体がいれば、それはすぐに生存個体群から除去されます。毛の色が保護色と違ってしまった、ちょっとした体調不良で素早く逃げられない、関節の形が変形していてうまく動けない、なんて個体はすぐに捕食者に食われるでしょう。つまり、その辺をピンピン跳び回っている個体を捕まえてみたところで、遺伝子異常なんて見つかるはずがないのです。問題は、死んでいった14匹のうち、放射線障害に起因する死亡個体数が、1匹だったのか、7匹だったのか、ということなのです。死んでしまってここにいないネズミこそが放射線障害の真実を証明できるのであって、ここにいるネズミは何も語らないのです。死人に口なし、いや死ネズミに死体なしなのですから、結局、何もみつかるはずないのです。(細かく言えば、生きているネズミでも、月齢数を比較することにより、多少の推計を試みることはできる・・・障害発生が死に直結すると考えられる今回のケースでは、生涯の各時点での放射線障害発生率=死亡率上昇は、ニッチに許容される個体数や個体群の健康度を変化させなくとも、早めに死ぬ確率を高くするわけですから、個体群構成の低年齢化はさせると考えられる・・・しかし、そのためには、膨大な個体数の月齢を測定する調査と、放射線以外の要素が全て同じというあり得ない前提を置かないと、なかなかうまくいかないはずですが)。
こういうインチキ研究をもとに、
(ナレーション)「これまでの調査では、奇形や個体数の減少など、目に見える異変は見つかっていない。」

(三浦発言)「この線量が本当に体に悪いのか、実際はわからない部分が多いのが現状」
と来ます。バカかぁ。わざと「実際」が分からないようにする研究してるんじゃないか。
で、これがいかに悪質かというと、
「福島県内の野生生物における遺伝学的変化を指標とした放射線の生物影響評価」
三浦富智が研究分担者として名を連ねている報告ですが、
「本年度は、以下に示す研究成果を得た。まず第1に、2011年秋期では両地域で捕獲したアカネズミの齢構成を比較すると、齢カテゴリーwIV(2011年2~6月出生)の個体は青森県で27.3%を占めるのに対し、福島県では捕獲されなかった。また2012年春期においても齢カテゴリーwV、VI(2011年1~10月出生)の個体が青森県に比べ福島県では有意に少なかった。いずれの場合も福島第一原子力発電所事故発生時期に出生した個体が少ないという結果を得た。」
と書いてあります。何を研究しなければならないか、解っているじゃないですか。ネズミの歳、月齢(引用文中の「齢」)ですよ。
もっとも、その後で「一方、両地域間では、染色体異常頻度や個体成長率に有意な差が認められなかった。以上より震災前後に出生した個体数の減少における放射性物質の影響である可能性が少ないことが示唆された」とも書いてあります。ネズミ算の世界が本当に解っていないバカなのか?? (そもそも、福島では原発事故期に生まれたネズミがいない--青森では27.3%もいたのに--というのが、原発事故の影響ではないと、何でそうなる??)
いずれにせよ、ここまでバカな研究(もしくは分かってやっているなら悪意に満ちた研究)をたっぷりと時間を取って紹介するNHK、原発推進安倍政権へのご奉仕ご苦労さんなことです。
ちなみに、この番組も最後のところでは強烈な淘汰圧のかかっていない(ネズミ算の世界ではない)サルの研究例を出して、放射線による異常が発生してることを述べざるを得なくなっています。ま、人間が考えなければならない問題が、ネズミ算の世界と、サルの世界のどちらに近いのか、明らかではあります。
PS. 生きネズミの染色体に語らせるならば、DNAの中立領域における変異確率を調べて、そこから、DNAの有用領域へのダメージを推計するという方法も考えられるでしょう。でもそれは、染色体の中身となるDNAの分析なので、三浦がやっている染色体の数を数えるような原始的な研究方法では絶対に無理なことです。
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