【再改訂版】PAZ・UPZ・PPAの意味
2012-01-19
原子力安全委員会の作業部会が方針を打ち出した、原子力災害防災対策区域の区域割り設定変更案、いろいろ考えてみると、当初考えたことよりも、問題点が多いことがわかってきました。 そもそも、原子力災害防災対策区域は、細野豪志環境相・原発事故担当相が2011年10月1日、それまで8~10kmとされていたEPZ(「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲」)の改定案を10月中に決定することを発表したのが、政府発表の発端でした。そして原子力安全委員会が、EPZをPAZ・UPZ・PPAと細分化し、UPZを30km圏、PPAを50km圏とする案を確定したのが10月20日でした(この時、PPAはまだPPZ)。当初、当方、放射性セシウムを中心とする空中被曝線量から考えていました。もちろん、事故直後は放射性ヨウ素のほうがはるかに高い被曝をもたらすことは分かっていたのですが、放射性ヨウ素に関する使いやすいデータがなく、手を出しかねていました。しかし、それではどうにもなりませんので、できる範囲で考え始めました。
その最中、2011年12月7日、原子力安全委員会・防災専門部会被曝医療分科会が、安定ヨウ素剤服用基準をそれまでの半分の値に厳格化しました。この厳格化された数値をまじめに受け取れば、原子力防災対策区域も拡大する必要があることになります。原子力安全委員会・防災専門部会被曝医療分科会が行なった変更は、安定ヨウ素剤服用基準の100mSvから50mSv(1/2の数値)へのに改定ですので、その名もズバリのPPA(放射性ヨウ素防護地域)の最外周30km地点で放射線被曝が100mSvに達する事故が発生したとして、これが50mSvに低下するのは、原子炉からさらに何km遠ざかった地点になるかを計算してみました。その結果、得られた数値は、それまでの50km圏を、80km圏へと変更しなければならない、というものでした。これはかなりの変動ですので、ここしばらくは、これが各地においてどういう範囲になるのか、当ブログでは作図を行ってきました。(全国の状況と各地についてのリンクは→ こちら)。
ただしそれは、安定ヨウ素剤服用必要地域についての計算を、「放射性ヨウ素防護地域」という名称に対応して行なった計算に過ぎません。原発事故発生時、安定ヨウ素剤の服用が必要なのは、UPZ(緊急防護措置区域、30km圏)、PAZ(予防的措置範囲、5km圏)でも同じです。事故の規模により、これらの地域でも、安定ヨウ素剤の服用が、事故対策としてもっとも重要となる場合が考えられます。
その結果、UPZは現在の30km圏から50kmとするのが妥当という計算結果が得られました。またPAZについては、5kmを8kmとするのが妥当と考えられます。
より一層、問題の多い事態となっています。以下とりあえず、こういった当ブログでの検討結果をまとめておきます。

上図は、早川先生の地図(5訂版電子国土版)に、原子力安全委員会のプレスリリースにあった放射性ヨード汚染マップ(SPEEDIによる推計地図)を書き写して重ね、原子力防災対策範囲の同心円(とコメント)を書き込んだものです。原子力防災対策範囲と原子炉事故との地理的関係は、このようになります。
放射性ヨウ素は半減期の短いものが多くなりますので(I-131で半減期8.04日、I-133で0.867日)、事故直後は高い被曝値を示します。図中の値は、3月12日6:00から3月24日0:00までの1歳児の甲状腺の被曝積算値(一日中屋外にいた場合)とされています。当時の緊急時の放射線許容量がそうであったためか、原子力安全委員会の関心は100mSvまでしかなく、それより低いレベルは表示されていません。これに対し、早川先生の地図の値は、(ほとんどは放射性セシウムによる)時間あたり放射線被曝量となります。こちらは値は低いですが、3年で半分程度に減少と、長く影響が残ります。
なお、以上、ヨウ素と、空中放射線量として測定される放射性物質の主要部分を占めるセシウムについての検討であって、これらのほかにもまだ、ストロンチウムやプルトニウムという、とても危険な元素がありますが、現状そこまで考えていません。
さて、かくして、原子力災害防災対策区域なるものがどういう意味を持つのか、以下に考えたことを記していきます。
PAZ(5km圏)予防的措置範囲
もちろん最も危険な地域です。NHKのドキュメンタリー「NHKスペシャル シリーズ原発危機 安全神話~当事者が語る事故の深層~」では、次のようなことが述べられる場面があります。原子力安全委員会の安全指針制定過程で、はじめ参考にされたアメリカの基準では、原子力発電所の周辺は無人地帯を置くことになっていた。しかし、人口稠密な日本では、そのような原発立地は不可能だった、と。
PAZは、人間が住んではいけない区域だと思われます。ただの勘ですが、それは実は5kmではなく、かつてのEPZ、8~10kmあたりまでではないかという気がします(その昔のEPZ制定過程で、上記のアメリカの基準が参考にされていないだろうか?)。
PAZ修正必要領域(8km圏)
この原発至近距離での3kmの差が実際に意味を持つかどうかはともかくとして、防災専門部会被曝医療分科会の緊急時被曝基準値の改訂に対応するならば、PAZは実際はここまでと考えなければならない領域です。
UPZ(30km圏)緊急防護措置区域
この区域も、できれば住まないに越したことはない区域であろうと思われます。いったん福島級の原発事故が起きれば、12日間ほどで放射性ヨウ素から500mSv(ミリシーベルト)~5000mSvの内部被曝をすることが見込まれます。これは、リンパ球の減少(500mSv)、急性放射線障害(1000mSv)、「50%の人が死亡する」(3000mSv~5000mSv)という事態の起きるレベルです。原発事故状況下、12日間も屋外で無為に過ごす人(しかも1歳児)はいないでしょうが、放射性ヨウ素のガスが到来する前に確実に安定ヨウ素剤を服用し、できるだけ早く避難する必要があります(そもそも安定ヨウ素剤の効力持続期間は1日程度)。
また、外部被曝だけでも、2日と5時間ほど居ると、ICRP勧告(年間1mSv)を超えてしまう可能性があります。
UPZ修正必要領域(50km圏)
防災専門部会被曝医療分科会の緊急時被曝基準値の改訂に対応するならば、UPZは実際はここまでと考えなければならない領域です。
PPA(50km圏)放射性ヨウ素防護地域
原発重大事故の際にはまず屋内退避し、風向きにより、安定ヨウ素剤を服用の上、域外へ避難ということができる準備の必要な地域です。当初は50km圏とされましたが、防災専門部会・被曝医療分科会が行なった改訂作業は、まさに、安定ヨウ素剤の服用が必要とされる基準値の改訂ですから、放射性ヨウ素防護地域PPAは拡張されて当然と考えられます。
PPA修正必要領域(80km圏)
PPA(放射性ヨウ素防護地域)50kmという範囲指定は、100mSvという被曝を念頭に置いて策定されたと推測されます。SPEEDIの予測図では、100mSv汚染地帯は若干50kmをはみ出していますが、大雑把にその程度とされた感があります。しかし、基準が50mSvの被曝ならば、もっと広げなければなりません。当ブログの概算では、80kmというのが計算結果でしたが、正確を期すならば、SPEEDIなり、他のシミュレーションなりで定める必要があるでしょう。ただ、それが75kmになるにしても、PPAはこの程度、拡大される必要があることは変わらないと思われます。
この地域ならば、大して気にしなくても良い、という話ではありません。放射性ヨウ素が、原子炉破損時点で大量放出され、その後は大して出ないという想定で計算してみたものですが、50km地点、初日だけで被曝量は10mSvを超えます。ちなみに、原爆手帳交付相当は2mSvです。そうであればこそ、原子力災害に備え、安定ヨウ素剤をいつでも飲めように準備しておく必要がある地域ということになります。
WHO基準安定ヨウ素剤服用範囲
さてしかし、被曝医療分科会が定めた50mSvというのは、IAEA基準に準拠したものです。これに対し、世界保健機関(WHO)は小児や妊婦、授乳中の女性の服用基準を10mSvとしています。
放射性ヨウ素からの被曝相当量が10mSvとなる地点が事故原発から何kmになるのか、推計はかなり怪しくなるのですが、一応やってみたところ、250kmでした。そこまで到達するのか、計算をしたときは半信半疑でしたが、上の地図の空中放射線量の分布を見ると、このあたりまで確実にある程度の濃度をもった放射能雲(放射性プルーム)が到達しているのが解ります。放射性セシウムと放射性ヨウ素では、確かに拡散の仕方が違うのですが、大きな違いは、雨で固定されるか否かのようです。放射性セシウムは、雨によって足跡が固定されていき、挙動が推定できますが、ヨウ素では不明です。ただ、汚染マップを見ると、一緒に放出された気体あるいは固体の放射性ヨウ素が、放射性セシウムと共に、この距離を(ある濃度を保って)通過していったことを推測させるのに十分な、空中放射線量が示されているように思えます。
小児や妊婦、授乳中の女性の方は、このあたりまで、やはり安定ヨウ素剤の服用が必要かもしれません。もっとも、安定ヨウ素剤に副作用がないわけではないそうなので、どう判断するのか、厄介な問題です。
以上のようなところで、原子力安全委員会には、原子力防災対策地域の改訂、WHO基準にも配慮した安定ヨウ素剤配布計画など、きちっと仕事をしてもらいたいものです。なお、それがなされないならば、各地地方自治体が、原子力防災対策に自主的に取り組む必要があります。ここはしっかりと仕事をしてくれないと困ります。
【1/30追記】こちらもご覧ください → 滋賀県、UPZを42kmに拡大
【2012.2.1訂正】申し訳ありません。計算間違いをしていましたので、数値(および図)等を訂正しました。
〔謝辞〕早川由紀夫先生、放射能汚染地図(五訂版)の公開、重ね重ねありがとうございます。
放射性ヨウ素は半減期の短いものが多くなりますので(I-131で半減期8.04日、I-133で0.867日)、事故直後は高い被曝値を示します。図中の値は、3月12日6:00から3月24日0:00までの1歳児の甲状腺の被曝積算値(一日中屋外にいた場合)とされています。当時の緊急時の放射線許容量がそうであったためか、原子力安全委員会の関心は100mSvまでしかなく、それより低いレベルは表示されていません。これに対し、早川先生の地図の値は、(ほとんどは放射性セシウムによる)時間あたり放射線被曝量となります。こちらは値は低いですが、3年で半分程度に減少と、長く影響が残ります。
なお、以上、ヨウ素と、空中放射線量として測定される放射性物質の主要部分を占めるセシウムについての検討であって、これらのほかにもまだ、ストロンチウムやプルトニウムという、とても危険な元素がありますが、現状そこまで考えていません。
さて、かくして、原子力災害防災対策区域なるものがどういう意味を持つのか、以下に考えたことを記していきます。
PAZ(5km圏)予防的措置範囲
もちろん最も危険な地域です。NHKのドキュメンタリー「NHKスペシャル シリーズ原発危機 安全神話~当事者が語る事故の深層~」では、次のようなことが述べられる場面があります。原子力安全委員会の安全指針制定過程で、はじめ参考にされたアメリカの基準では、原子力発電所の周辺は無人地帯を置くことになっていた。しかし、人口稠密な日本では、そのような原発立地は不可能だった、と。
PAZは、人間が住んではいけない区域だと思われます。ただの勘ですが、それは実は5kmではなく、かつてのEPZ、8~10kmあたりまでではないかという気がします(その昔のEPZ制定過程で、上記のアメリカの基準が参考にされていないだろうか?)。
PAZ修正必要領域(8km圏)
この原発至近距離での3kmの差が実際に意味を持つかどうかはともかくとして、防災専門部会被曝医療分科会の緊急時被曝基準値の改訂に対応するならば、PAZは実際はここまでと考えなければならない領域です。
UPZ(30km圏)緊急防護措置区域
この区域も、できれば住まないに越したことはない区域であろうと思われます。いったん福島級の原発事故が起きれば、12日間ほどで放射性ヨウ素から500mSv(ミリシーベルト)~5000mSvの内部被曝をすることが見込まれます。これは、リンパ球の減少(500mSv)、急性放射線障害(1000mSv)、「50%の人が死亡する」(3000mSv~5000mSv)という事態の起きるレベルです。原発事故状況下、12日間も屋外で無為に過ごす人(しかも1歳児)はいないでしょうが、放射性ヨウ素のガスが到来する前に確実に安定ヨウ素剤を服用し、できるだけ早く避難する必要があります(そもそも安定ヨウ素剤の効力持続期間は1日程度)。
また、外部被曝だけでも、2日と5時間ほど居ると、ICRP勧告(年間1mSv)を超えてしまう可能性があります。
UPZ修正必要領域(50km圏)
防災専門部会被曝医療分科会の緊急時被曝基準値の改訂に対応するならば、UPZは実際はここまでと考えなければならない領域です。
PPA(50km圏)放射性ヨウ素防護地域
原発重大事故の際にはまず屋内退避し、風向きにより、安定ヨウ素剤を服用の上、域外へ避難ということができる準備の必要な地域です。当初は50km圏とされましたが、防災専門部会・被曝医療分科会が行なった改訂作業は、まさに、安定ヨウ素剤の服用が必要とされる基準値の改訂ですから、放射性ヨウ素防護地域PPAは拡張されて当然と考えられます。
PPA修正必要領域(80km圏)
PPA(放射性ヨウ素防護地域)50kmという範囲指定は、100mSvという被曝を念頭に置いて策定されたと推測されます。SPEEDIの予測図では、100mSv汚染地帯は若干50kmをはみ出していますが、大雑把にその程度とされた感があります。しかし、基準が50mSvの被曝ならば、もっと広げなければなりません。当ブログの概算では、80kmというのが計算結果でしたが、正確を期すならば、SPEEDIなり、他のシミュレーションなりで定める必要があるでしょう。ただ、それが75kmになるにしても、PPAはこの程度、拡大される必要があることは変わらないと思われます。
この地域ならば、大して気にしなくても良い、という話ではありません。放射性ヨウ素が、原子炉破損時点で大量放出され、その後は大して出ないという想定で計算してみたものですが、50km地点、初日だけで被曝量は10mSvを超えます。ちなみに、原爆手帳交付相当は2mSvです。そうであればこそ、原子力災害に備え、安定ヨウ素剤をいつでも飲めように準備しておく必要がある地域ということになります。
WHO基準安定ヨウ素剤服用範囲
さてしかし、被曝医療分科会が定めた50mSvというのは、IAEA基準に準拠したものです。これに対し、世界保健機関(WHO)は小児や妊婦、授乳中の女性の服用基準を10mSvとしています。
放射性ヨウ素からの被曝相当量が10mSvとなる地点が事故原発から何kmになるのか、推計はかなり怪しくなるのですが、一応やってみたところ、250kmでした。そこまで到達するのか、計算をしたときは半信半疑でしたが、上の地図の空中放射線量の分布を見ると、このあたりまで確実にある程度の濃度をもった放射能雲(放射性プルーム)が到達しているのが解ります。放射性セシウムと放射性ヨウ素では、確かに拡散の仕方が違うのですが、大きな違いは、雨で固定されるか否かのようです。放射性セシウムは、雨によって足跡が固定されていき、挙動が推定できますが、ヨウ素では不明です。ただ、汚染マップを見ると、一緒に放出された気体あるいは固体の放射性ヨウ素が、放射性セシウムと共に、この距離を(ある濃度を保って)通過していったことを推測させるのに十分な、空中放射線量が示されているように思えます。
小児や妊婦、授乳中の女性の方は、このあたりまで、やはり安定ヨウ素剤の服用が必要かもしれません。もっとも、安定ヨウ素剤に副作用がないわけではないそうなので、どう判断するのか、厄介な問題です。
以上のようなところで、原子力安全委員会には、原子力防災対策地域の改訂、WHO基準にも配慮した安定ヨウ素剤配布計画など、きちっと仕事をしてもらいたいものです。なお、それがなされないならば、各地地方自治体が、原子力防災対策に自主的に取り組む必要があります。ここはしっかりと仕事をしてくれないと困ります。
【1/30追記】こちらもご覧ください → 滋賀県、UPZを42kmに拡大
【2012.2.1訂正】申し訳ありません。計算間違いをしていましたので、数値(および図)等を訂正しました。
〔謝辞〕早川由紀夫先生、放射能汚染地図(五訂版)の公開、重ね重ねありがとうございます。
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福島県福島第一/第二原発