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原子力発電は安いのか: 発電コストと電気料金

2011-09-18
「原子力発電は安い」というのがウソであることは、もはや知れ渡ってきました。
 改めて書くまでもないかと思いましたが、一応自分なりにまとめておきます。論点は四つです。

 論点1・・・原子力発電の「原価」(電気事業連合会コスト試算、5.3円/kwh)とされるものには、必要な費用が算定されていない。粉飾決算されている。原価計算に含まれていないものとして、ざっと思いつくのは、
 ・核廃棄物処理費用
 ・廃炉費用
 ・原子力発電による夜間余剰電力対策としての揚水発電所建設・運用費
 ・電力消費地と遠隔に立地する必要のある原発に必要な長距離送電費用および長距離送電ロスによる損失(事故のことを考えるとどうしても遠隔立地となる)
 ・事故に備えた充分な損害保険費用もしくは積立金
 ・地元対策費
 ・これらに加え、今回の福島原発事故処理費
 以上のような項目は、原子力発電の原価計算において算定されておらず、原子力発電原価は不当に低く算定されている。
 さらにいろいろ書いておきたいこともありますが、既にネットでもいろいろ書かれているので、とりあえず。

 論点2・・・実際に高い
 以前にも紹介したブログ「白老の自然情報」、このサイトではこの件についても、重要な資料が紹介されています。「電力会社自身が設置許可申請時に、電源開発調整審議会に提出した資料」を見れば、「日本の主要な原発の1kWh当たりの発電原価見積もりは、『泊1号機17.9円、女川1号機16.98円、柏崎刈羽5号機19.71円、浜岡3号機18.7円、大飯3号機14.22円、玄海3号機14.7円』」と記されているとのこと。

 論点3・・・「高速増殖炉」と「核燃料サイクル」
 ところで、こんなに高いはずの原子力発電に、なぜ5.3円、などという「原価」が提示されているのか? ウソにしても、何らかの理由づけが必要なはずです。特に「白老の自然情報」で示されたように、実際の工場出荷価格をはるかに下回る価格づけが堂々となされているのですから、そこには何かよほどのトリックがあるはずです。
 これは推測ですが、キーワードはたぶん、「高速増殖炉」あるいは「核燃料サイクル」です。論点1でリンクを張ったページの多くには“バックエンドの過小評価”といったことが記されていますが、バックエンド(ごみ処理)には、単なる過小評価では済まない、何かがありそうです。バックエンドには、原子力発電の将来構想に絡む例の大マジック、高等魔法「高速増殖炉」「核燃料サイクル」があります。ある特殊な炉では、放射性物質を燃やす際に出る放射線(高速中性子)を、燃料中の不純物ともいえる非放射性のウラニウムに当てて放射性のプルトニウムにすることができる。このプルトニウムは(放射性物質ですから)原子炉の燃料にすることができる。つまり原子炉を運転しながら自分の燃料を増殖させて行くことができる。かくして、原子炉で燃やした廃棄物が再び燃料となる循環過程“核燃料サイクル”を作り出すことができる、というやつです。
 これが実現すれば、燃えかす、廃棄物であるはずの、プルトニウムを、燃料、資産として計算することができます。バランスシートの右側(負債)でなく、左側(財産)として計算できます。それも何倍にも増える予定の高価な資産として。
 これが将来実現するという仮定のもとに計算すれば、工場出荷電気代が高くとも、計算上の電気代はその価格から、生産される燃料の“評価額=利益”を差し引いた額とすることができます。ごみ処理費用(バックエンド)は「過小評価」どころか、利益を生み出す“打ち出の小槌”という評価さえ可能のはずです。これくらいのことをやれば、実際の発電費用とは懸け離れた「原価」を計算することも簡単でしょう。論点1 がコストのダイエットなら、この論点3 は、「気球で吊り上げ」です。

 ここにはもちろん、二つの問題があります。一つは「高速増殖炉」の魔法は、実際は危険すぎて“まだ”使えていない、ということ。「もんじゅ」で検索してみれば、いくらでも書き込みがあります。そしてもう一つは、こんな計算いくらしたって実際の電気料金計算とは全く関係がない、ということです。論点1 の計算も、もちろん無意味です。実際の電気料金は総括原価方式で計算されます。

 論点4・・・総括原価方式
 実際の電気料金は、発電方式による“原価”計算とはまったく関係のない、別の式で計算されます。地域独占の電力業界ということで、電気料金は、かかった費用(すなわち、電力会社が使った金)に一定の利益率をプラスして算定されます。これって、すごい話です。発電・送電に金をかければかけただけ、料金で原資を回収できるだけではなく、儲け(絶対額)も増える、ということですから。「電気作るのにこんなにお金がかかっちゃった、だから法令に従ってその○○パーセントに当たる利益、料金に上乗せして、徴収しますよ~」、ということなのです。これは、たとえれば、どこの社会主義経済下の国策企業だって享受したことの無い超優遇待遇です。社会主義経済下企業だって政治家から目標は押し付けられるし、官僚からはノルマで絞めつけられるのですから。
 かくして、原発は、金がかかるから、電力会社はやりたいのです。電気料金が上がり、利益が増えるのです。

 で、話は論点1へ戻ります。原子力発電が安いという粉飾計算を行う担当者は、単純に計算したら高くなってしまう数字を前に「こんちくしょう、なんとか粉飾しなければ」と思って悪戦苦闘しているのではないでしょう。「ホントはこんなに高いんだよね、電気料金計算のときにはしっかり算定されるから、お~、ウハウハだな~」とニヤニヤしながら楽しく計算に工夫を凝らしていることでしょう。

 ですから、原子力発電をやっていなかったならば(少なくしておいたならば)、電気料金はもっと安かったはずです。
 ここでホントは、「だから『原子力発電をしなければ電気代が上がる』というのは、大ウソです」、と書きたいのですが、実はそうはいきません。既に投資してしまった分は、しっかりと総括原価として回収されるからです。今、既にある原発を使わずに他の発電方式を使うということは、これまでの原発への投資を無駄に負担させられ、その上で本来の発電費用を負担させられるということだからです。それでは確かに「電気代は上がります」。
 しかし、次の点は確認しておく必要があります。だからといって「原子力発電で当座はしのいだら、安く済む」わけでもない、という点です。バックエンドの神話(あれ!? さっきは「魔法」とか書いたような・・・神も魔も一緒だね 汗)は既に崩壊しています。高速増殖炉実用化の見通しはまったく立たず、電力会社もしょうがないからMOX燃料によるプルトニウム処理を始めています。この時点で、廃棄物処理価格は“高騰”しているわけですが(魔法の燃料⇒手間のかかる危険な燃料)、さらに、イギリスの「廃棄物⇒MOX燃料化」処理工場は閉鎖フランスの処理工場は敷地内火事といった事情でトラブっており、まだ技術確立もできていない六ヶ所村だのみという危うい状況です(六ヶ所村が順調に行ったとしても、核廃棄物処理費“高騰”の現実は別に変わるわけではない)。原子力発電所を動かせば動かすだけ、核廃棄物処理費という負債を積み上げることになります。バランスシートの左側にあったはずの財産が、ある日ひょっこり右側に移ってきて、多大な負債請求をされる日を待つことになります。原子力発電の継続は、この負債を積み増す行為にほかなりません。まあ、この負債額と、現状で原子力以外の発電を利用した場合の追加コストを比較する、というソロバン勘定をしたい人もいるでしょうが。私は電力会社の出すデータ(それしか、たぶんデータは存在しない)で計算してみたいとは思いませんが。


[関連項目]
 原子力発電は安いのか: 発電コストと電気料金(2)

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