原発ゼロシナリオの経済的インパクト
2012-08-09
まず結論から書いておきましょう。日本経済への原発ゼロシナリオ(原発廃止)のインパクト、ありません。原発関係者に対する影響を除いて。日本の経済から原発関係が無くなった場合、それはその部分がなくなりますから、全体の規模はそれだけ縮小します。しかし、他の部分はそのままです。何も変わりません。メディアはこの部分をちゃんと説明せず、「豊かさの見直しが必要かも」といった余計なことばかり言っています。でも原発廃止の影響が及ぶのは原発関係者だけで、他の人々が貧しくなったりすることはありません。今のままです。
理由は、政府試算を見なおしてみれば解ります。
政府は2030年原発比率に応じて、実質国内総生産(GDP)を次のように予測しています。
原発比率0% 564兆~628兆円
原発比率15% 579兆~634兆円
最低同士・最大同士を引き算してみると、原発ゼロシナリオの場合、15%シナリオと比較して、6兆~15兆円、GDPが減る計算になります。
さて、原発産業の規模はどのくらいでしょうか。(社)日本原子力産業協会の文章を見ると、2010年の「電気事業者の年間の原子力関係支出は2兆1420億円となっています。また、国の原子力関係予算は、“復旧対策費”を外すと、4374億円となります(2012年)。合計、2兆6千億円ほどが直接、支出されています。
国や企業の支出が、GDPをどれだけ押し上げるかは、乗数効果を加えて計算されます。ちゃんと説明してあるのはwikipediaかな、でも難しいので こっち を見たほうが良いかな。とにかく、企業の支出は一定部分、下請けに回り、それはさらに孫請けに・・・と回り、この経済活動全体をカウントした結果がGDPへの寄与額ということになります。
この乗数効果の大きさを決めるパラメーターが、“限界消費性向”です。限界消費性向の数値としては、内閣府が増税正当化のために明らかに“不自然な計算”をした場合などを除き、普通、0.6~0.8程度で考えられています(“不自然な計算”リンク先、あるいは、『平成22年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)―需要の創造による成長力の強化― 平成22年7月 内閣府』のコラム参照)。
限界消費性向0.6と0.8の場合で乗数効果こみの原発産業の経済規模を計算してみましょう。
2兆6千億円 ×{1/(1-0.6)}= 6兆5千億円
2兆6千億円 ×{1/(1-0.8)}= 13兆円
公式の支出だけで原発はGDPを6兆5千億円~13兆円程度押し上げている、ということになります。裏返して書けば、原発産業が無くなれば、GDPはこれだけ減る、ということになります(他には何の影響もなく)。まあ、これだけで冒頭の結論はほとんど出てしまったようなものですが、“15兆円には達していない”とか、“限界消費性向、ホントはもっと小さい”とか、“足りなくなったぶんの電気はどうなる”とか(いや、その分他の手段で発電すれば、それによってGDPは押し上げられ、かえってGDPの落ち込みは少なくなるので、この批判はノープロブレムなのですが)、なんかいろいろ言う人もいそうなので、これまでの計算に更にマージンがある理由を付け加えておきましょう。
寄付金とか、補填とか、原発立地自治体に様々な金が払われています。また、福島事故後の全原発停止で計画停電の話が出るまで、原発の夜間電力対策専門だった揚水発電所への投資のように、実質原発関連支出とすべきものもあります。さらに、原発推進の古川佐賀県知事へのお礼じゃないかと噂されている、重粒子線がん治療施設への寄付など、どこまで「原子力関連支出」として計算すべきなのか分からない金がいっぱいあります。これら、上の計算に入っていません。でも、本当は計算に含めるべきです。
さて、こういった支出の額をどう見積もるか、が問題です。この額は、粉飾されていることが確実な金額ですから、どこかを検索してみれば出てくる、というものではありません。
ここでwikipediaを見てみます。電力会社が経産省審議会に提出した、いくつかの原発の発電コストが出ています。
柏崎刈羽5号機 19.7円/kwh
浜岡3号機 18.7円/kwh
泊原発1号機 17.9円/kwh
女川1号機 17.0円/kwh
玄海3号機 14.7円/kwh
大飯3号機 14.2円/kwh
大飯4号機 8.9円/kwh
玄海2号機 6.9円/kwh
同じwikipediaのページに記載されている、“内閣府公式”原子力発電コスト、2004年までの「5.9円/kwh」、それ以後の「8.9円/kwh以上」と激しく異なります。上記発電コストの単純平均を取ると、14.75円/kwhとなります。
大甘な査定になりますが、高い方の公式発電コスト8.9円/kwhと比較すると、実勢コストは66%増しです。
ここから推測すると、原発の実経済規模は、公式データによるものの66%増し程度であると推定されます。かくして、上の公式支出データによる計算に、これを加えて・・・
見えない支出まで考えると原発はGDPを10兆8千億円~21兆6千億円程度押し上げているということになります。
政府試算では様々な精巧な計算が行われているでしょうが、ざっくりと概算してみれば、こんなもので、原発ゼロシナリオにおいて6兆~15兆円GDPが減るというのは、原発産業の分だけGDPが減るというだけの話です。他分野に大きな影響が及ぶ金額とは全く考えられません。まあ、経産省は失業対策や地域振興に汗をかかないわけにはいかないでしょうが、原発ゼロシナリオの経済的インパクトは、その程度、つまり「影響ない」です。
PS. あ~あ、書いちゃった。いや、80年台エコロジー運動の洗礼を受けたブログ主としては、“大量消費社会の象徴としての原発を廃絶し、エコロジカルな社会にしていくために、自らの生活をもっとエコロジカルなものに見直しましょう”とか、つい言いたくもなってしまうのですが、でも、原発って実は経済的には全然大したことない(放射性物質汚染は深刻だけど)。これじゃ大量消費社会を推進しているどころか、“単に寄生しているだけじゃないの”な数値です。これなら原発なくなっても、夏にガンガン、エアコン効かせたって問題ないし(あ、いや、経済的には)、冬に暑いくらい暖房した部屋で冷たいアイスクリームを頬張ったって、全然ノープロブレム(あ、いや、あくまで経済的には、です)です。原発問題は文明論的問題じゃなくて、単に総括原価方式、濡れ手で粟の暴利を貪る業界をどう処分するかの問題に過ぎないようです・・・って、書くことになるの分かってたんで(エコロジー運動アイデンティティ・クライシス!!)、この書き込み、書くのに抵抗あったのですが、あ~あ、書いちゃったぁ。
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