「安全か経済か」という議論の間違い
2012-08-29
原子力政策をめぐって、よく「安全を取るか経済を取るか」といった議論設定がなされることがあります。しかしこれは全く間違った議論の始め方です。なぜならば、原子力発電に経済的利点はないからです。つまり安全性を取るならば原発は廃止されるべきであり、経済性をとるならばやはり原発は廃止されるべきだからです。当ブログでは原発の経済性についていくつかの視点から検討してみました。ここで少しまとめておきます。
1.まず発電としてどうなの?
発電として経済的か??、という点が、まず第一の論点となるでしょう。
原発のコストは国の「コスト等検証委員会」の報告で、1kwhあたり“最低でも9円以上(事故処理費もしくは保険料を算入すると実際はどこまで高くつくか計算できない)”です(リンク先は無料会員登録が必要なサイト)。つまり、石炭火力やガス火力の10~11円、風力の9.9円(洋上9.4~23.1円)、地熱の10円前後、コジェネレーションシステム(コジェネ)の11円前後、と比較して、原発は保険料等を算入すれば間違いなく高くつく、ということになります。
さらに、実際の各原発の電力価格(電力会社が原発建設申請時に経済産業省に提出した発電コストの試算)は、柏崎刈羽5号機 19.7円/kwh、浜岡3号機 18.7円/kwh、泊原発1号機 17.9円/kwh、女川1号機 17.0円/kwh・・・、だそうです。ありゃ、国のコスト計算よりひどく高いじゃん。保険料をまともに払ってなくてこの価格です(保険は原賠法まかせ・・・福島じゃ全く役に立たなかった)。まあ、大飯4号機 8.9円/kwh、玄海2号機 6.9円/kwhなんてのもありますが・・・これ、玄海原発で言えば、防潮堤もない、免震棟もない、ということで、安価な理由は安全性の無視によるものですから、安ければ良いというものでもない、と付け加えておきましょう。
これで、電気代どうなるのか?? 当然、高くなります。電力は地域独占企業ですので、価格競争なし。発電にかかった金は全て電気料金で回収する制度となっています。しかも実際の電気料金算定は、リンク先に書きましたが複雑怪奇な総括原価方式という電気料金算定システムがあり、原発では暴利が貪れるようになっています(核廃棄物=ゴミが、再処理用“燃料”=資産として計算される→電気料金高騰)。
結論、原発は経済的ではない発電方法、ということになります。
2.それでも原発は日本経済に何らかの貢献をしているのでは??
政府が“国民的議論”のために公表した2030年原発依存率シナリオ、ここで示された試算が、原発の国民経済への貢献を雄弁に語っています。
2030年原発依存率 0% GDP 564兆~628兆円
2030年原発依存率 15% GDP 579兆~634兆円
2030年原発依存率20~25% GDP 581兆~634兆円
一見、原発依存率が高まるほど、GDPも増えるように見えます。しかし「ちょっ~と待った!!」 です。
まず「15%」と「20~25%」を見比べてみます。違うのは「579兆」と「581兆」の一ヶ所だけ。その差わずか2兆円。なんと、原発依存率が5~10ポイント違っても、GDPの差は誤差程度ということになります。原発は国民経済に貢献しない(国が豊かになることはない)、という数字です。
じゃ、「0%」はどうなのか?? 「15%」と比較して15兆~6兆円、「20~25%」と比較して17兆~6兆円、GDPが少なくなり、国が貧しくなるような気がします。ところがそうじゃないのです。現在、電力業界の原子力関係支出と国の原子力関係支出を合計すると2兆6千億円ほどです。これに原発関係と明示されない地元寄付金等を考え、これらがどれだけGDPを押し上げているのか、当ブログではざっと概算してみました。企業や国の支出は、下請けや孫請け、関連業界にも次々と回り、直接支出の数倍、GDPを押し上げることになります。これを考えると、原子力発電は、明示的支出だけで6兆5千億円~13兆円程度、他の支出も推測して加えると、10兆8千億円~21兆6千億円程度、GDPを押し上げていると思われます。さて「0%」シナリオでは、この原子力産業がなくなります。そのぶんGDPが減少することになります。金額を見なおしてみましょう。ありゃ、試算が示したのは、「原発依存率が0%になると、原子力産業ぶん、GDPが減りますよ」、というだけのことだったのです。これあまりにもあたり前過ぎ~、原発産業関係者以外に何か影響が及ぶという数字ではありません。
かくして、原発は国民経済へ貢献していない、ということになります。
・・・と、いうことで、「安全か経済か」という議論設定は大間違い、ということになります。「安全も経済もダメダメな原発をどうするのか」、というのが正しい議論設定です。
PS. にも関わらず、原発廃止には、様々な経済的困難があるとされています。一言で言ってしまえば、これまで暴利を貪るためにやってきた様々なインチキの副作用ということなのですが、それはまたの機会に。
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